暗い。
暗い世界。
上も下も右も左も真っ暗だ。
まぁ、ある種おなじみだけれど。
暗い世界の中で、相変わらず、私自身は光っていた。
いい感じにだ。
それでも、目を上げれば、遠くに、星のような粒が見える。
多分、それは、きっと、アレだ。
アレって何だ?って言えば、アレだよ。アレ!
とりあえず私は、星のような粒に向かって足を進める。
近づけば、六人…いや、六柱の神が座っているのがわかる。
神々は車座になって座っている。
何かを話し合っているようだが、会話までは聞こえない。
私はようやく近くにまで歩み寄る。
ブツブツ声も聞こえて来る。
「こんにちわ。」
私の声掛けにようやく神々は私を見る。
皆、それぞれ文様が違う、何かの仮面を被っているようだ。
一瞬の沈黙。
神々は、私の事を認識したようで、座正し、体を私に向け、手を付いて頭を下げる。
「これは、これは、イリキヤアマリの主人(あるじ)よ、ご機嫌麗しゅう。」
一の仮面の神が挨拶する。
その名はヌゥハラカンドゥ。
野太く雄々しい声だ。
「ご機嫌麗しゅう。」
ニの仮面の神。
その名はアラシバナカサナリ。
甲高い声だ。
「ご機嫌麗しゅう。」
三の仮面の神。
その名はクゥムトフシンガーラ。
涼やかな声だ。
「ご機嫌麗しゅう。」
四の仮面の神。
その名はコムヴァハツカネ。
か弱い感じのする声だ。
「ご機嫌麗しゅう。」
五の仮面の神。
その名は、シューカゥン。
低く唸るような声だ。
「ご機嫌麗しゅう。」
六の仮面の神。
その名はトクゥアドゥン。
ダミ声だ。
慇懃な中に若干剣呑な雰囲気が含まれている六中の声。
私は苦笑する。
この6柱は元々人間だった。
今は、小さな島の祖神として祀られ、厚く信仰されている。
それぞれひとかどの武人だったそうだ。
まぁ、その力の一部は、以前御嶽(オン)巡りをして、ありがたく頂いている。
その際のやりとりで、彼らの予定よりちょっと多くの力を頂いたものだから、少し、根に持っておられるようだ。
とはいえ、神力で言ったら、私の方が遥かに上になっちゃっているから、下手に出ているようだけれど。
「丁寧なご挨拶、ありがとう。」
「…本日は、どういうご用件かな?」
二の仮面の神が問う。
「うんとね、欲しい人がいるの。」
「欲しい人?」
「この島にいる子だよ。一人ね。」
「カカカカ…ヌゥハラの家…ヌースの倅を言うとるのじゃろ」
ダミ声の六の仮面の神が笑いながら指摘する。
「ヌースの所の倅…なるほど。」
と、三の仮面の神。
「そんな事はヌースに聞けば良かろうに」
と、四の仮面の神。
「ヌースは今留守じゃよ。」
と、五の仮面の神。
「そうそう、ハーティと共に島を出ておる。」
と、二の仮面の神。
「それではヌースには聞けないのぉ。」
と、三の仮面の神。
「カカカ…だから我らに尋ねて来たのじゃろぉ。」
と、六の仮面の神。
「如何するかの?ヌゥハラカンドゥ。」
と、二の仮面の神。
一の仮面の神は直ぐに答えず、沈黙が訪れる。
ちょっと気まずい。
しばし後、一の仮面は神が声を上げる。
「島の者は、我らの保護下にある。」
うん?
どういうこと?
「…そうじゃの。ヌゥハラカンドゥ。と、なれば…」
二の仮面の神の言葉と共に、いきなり6柱の雰囲気が変わった。
う〜ん。
これはやばいヤツと違う?
「我らが島の者を欲するなら、我らを倒す覚悟をお持ちですな?」
一の仮面の神が、唸るように問いかける。
ただでさえ重々しい声なんだから、シャレにならない。
倒す覚悟って、そんなものはないよ。
もっと平和的に応じてもらえるモノかと思った。
私、嫌われているのかな?
やっぱり最初の御嶽(オン)巡りの時がまずかったかな?
まぁ、でも、欲しいモノは欲しい。
「倒さないと、ダメなの?」
「カカカ…そうなるかのぉ」
と、六の仮面の神。
この神様の笑い声は耳に障る。
「そう、なら、しょうがないわ。」
「おやおや?本気かのぉ?」
と、五の仮面の神。
本気も何も、言い出したのは、そっちじゃない?
ちなみに私の神女(カンヌ)としての力、つまり神力は、レベルでいえば2ぐらいだ。
一方、六柱の神様方の神力は、それぞれ、レベル1ぐらい。
つまり、私は彼らの倍する力を持っている。
彼らが私に下手に出ているのは、そういう差からだ。
だけれど、私は一人なのに対して、彼らは六柱だ。
実際に戦うとなると、数の上では負けている。
そこに勝機を見出しているようだけれど…ちょっと舐めすぎじゃない?
ブワッと、空間を割く音が響く。
私は五の仮面の神に向かって火炎をぶつけたのだ。
「うぉ!?」
「何をする!?」
何をするって、倒さないとダメだって言ったのはそっちじゃない?
そうとなれば、私は速攻だよ。
「あなた方を倒すの。」
「イキナリとは、無礼な」
無礼とか言ったのは二の仮面の神。
私は、そっちにむかって火炎をぶつける。
私の火炎は風の力も伴っているから、単なる炎属性の攻撃じゃない。
「むぉぉ!」
「ち、散れ」
散られると面倒なんだよね。
私は残りの4柱の神々にも火炎をぶつける。
さすがに、奇襲出来るのは最初の2発ぐらいで、4柱らは、きっちり防御の姿勢を取る。
「舐めるな!」
と一の仮面の神。
でも、それはあくまで火炎に対してでしょ?
私はすかさず、氷槍を投げつける。
「ごあ!?」
「なんだ?これは?」
氷だよ。
南の島の神様には縁がないものだからね。
神力の実体化には、イメージが大事なんだよ。
それに、私は、まだ6歳の女の子なんだから、近接戦闘とか無理だし。
「ぐぁ!」
「うぎゃ!」
六柱の誰か——いちいち確認してない——が、悲鳴をあげた。
でも、そんなの信じられない。
私は間断なく氷槍を浴びせ続ける。
私が撃たれるは嫌だから、遠慮なんかしない。
やがて、神々が倒れ、ぐうの音も出なくなった所で、攻撃を一度止める。
油断させておいて、まだ攻撃してくる可能性があるから、一応巨岩を、ボロボロになっている六柱の頭上に用意はしているけれど。
「う…う。」
「……。」
うめき声は聞こえてくるけれど、それ以外は特に反応はない。
「おーい…生きていますか〜?」
て、神様は死なないから、生きてますか〜?もないか?
「キ、キサマ…。」
喘ぐように三の仮面の神が声を上げた。
まだ、そんな態度が取れるんだ。
私は三の仮面の神の頭上に置いた巨岩を投下する。
グシャっていう音が聞こえた気がした。
「うぎゃぁ!」
大丈夫。
巨岩は10秒もしないうちに消えるから。
でも、消えると同時に再び頭上に復活するんだけれどね。
「恐れ入りました…」
四の仮面の神が平伏する。
「誠に…」
五の仮面の神も続く。
「かかか…げに恐ろしきかな…」
六の仮面の神。
笑っているから、まだ余裕があるんだろうか?
続けて二の仮面の神、三の仮面の神も平伏する。
最後に一の仮面の神が、両手を付くが、他の神らと違ってやや頭が高い。
プライド?
プライドなの?
「…そなたの強さは…認めよう…。」
一の仮面の神がゆっくり声を出す。
「カカカ…少々卑怯ではあるがのぉ」
グシャ。
私は六の仮面の神の頭上の巨岩を落とす。
こういうのは容赦してはいけない。
「それで、これは、倒したって事になるのかしら?」
「もちろんです。」
四の仮面の神が平伏しながら声を出す。
こういう空気が読めるタイプは嫌いじゃないよ。
「じゃあ、私が一人連れ出すのに文句はないわね。」
「文句はありません。」
五の仮面の神。
「異論はない。」
「ワシも同じじゃ」
二の仮面の神、三の仮面の神も同意の声を上げる。
「それじゃあさ、ちゃんと祈女(ユータ)を通して伝えてね。」
「家族に…ですか?」
「そうよ。そのためにお願いに来たんだから。」
「はは!」
五柱が頭を下げる中、一の仮面の神だけが、俯くだけで頭を下げない。
「そっちの神様は異論があるの?」
「…う、うう。」
「申し訳ありませぬ。ヌゥハラカンドゥは、その者の祖神ですので」
二の仮面の神が庇う。
「祖神?だから何よ。」
「い、いや。ワシも異論はない…どうか面倒を見て下され。」
一の仮面の神が平伏する。
面倒はキチンと見るよ。
当たり前じゃないか。
フン…と私は鼻で返事をする。
なんかこの態度は、悪役令嬢っぽいな。
とは言え内心では、初めての神々との戦闘に、かなり冷や汗をかいていたのだけれどもね。
そのあたり、余裕ない態度になってしまったかもしれない。
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