「父様」
私は夕食後の母屋で、ハーティの前に座ってハーティを呼ぶ。
一応ウィーギィ爺(ジージ)も脇に控えている。
あれ?
以前もこんな状況があったな。
…そうだ、あれは、塩を作らせてくれと願い出た時だ。
あれから2年経っている。
そいえば、季節も同じ、夏に向かう頃だ。
私はちょっと懐かしい気分になった。
「どうした?」
「お願いがあります。」
ハーティは、ギョロリと私を睨む。
2年前は思わず目を逸らしてしまったが、今はもう逸らさない。
私はじぃっとハーティの目を見つめる。
「…うむ。何だ。」
「供物から、少しばかり、私が必要としている分を、分けて頂きとうございます。」
ハーティは押し黙った。
それからゆっくり口を開く。
「理由は?」
「私の従者見習いの報酬として。」
「…そうか」
それだけ言うと、ハーティは再び黙った。
目を瞑り、腕組みして考えている。
「アワ、キビ、ヒエ、各1石ずつ与える。それで鍛えるだけ鍛えて見ろ。見込みがあれば、また考える」
アワ、キビ、ヒエかよ!
しかも各1石かよ!
シビアだね。
それに見込みの有り無しって、何基準で判断するんだよ!
とか、各種ツッコミを、私は顔に出すことはしない。
「ありがとうございます。」
と、手と付き、頭を下げる。
五穀と言われるものがある。
一般に、コメ、ムギ、アワ、ヒエ、キビ。あるいは、そのいずれかと代わって、マメだ。
要するに主食になりうる穀類だ。
村人らはこれらを順繰り生産している。
もちろん、一番美味いのはコメだ。
だが、コメには大量な水が必要で、耕作地は限られる。
なので、コメが生産出来ない場所、それぞれの特性にあった土地で、他の穀類を生産する。
うちのご飯が美味しくないのは、コメだけでなく、他の穀類も混ぜて炊き上げるからだ。
純粋にコメだけのご飯なら、旨味が全然違う。
エーシャギークの島は、かなり暖かいから、大体の穀類は二毛作だ。
特にコメの収穫はかなり大事で、だから、収穫後には祭祀が執り行われる。
ウォファム村の場合、それがイリキヤアマリ神の祭祀だ。
コメは最も売れる。
ただし、売れるといっても、現金収入になるわけではない。
そもそも、このあたりの島々では、現金である銭はほとんど見かけない。
銭の根源となる貴金属が取れないからだ。
なので主流は物々交換である。
エーシャギーク島の強みは、この人気穀類のコメがそこそこ採れる所だ。
繰り返す事になるが、コメを作るには、大量の水と、また、ある程度の水平地が必要だ。
エーシャギーク島には、そこそこ高い山があり、その結果、そこそこ水を湛えるから、そこそこ川になって流れる。
またそこそこ平地があるから、切ひらいて耕せば、そこそこの水田になるのだ。
なので、他の地域よりはコメがそこそこ採れる。
しかし、あくまでそこそこだ。
もっと言えば、他の島々に比べれば…というぐらいだ。
なので、コメだけを主食とし得ないのだ。
つまり、他の穀類と混ぜ合わせて頂くという事になる。
というか、そもそもコメは売れるから、消費は出来るだけコメ以外の穀類で…という感じだ。
だからハーティはコメ以外のアワ、キビ、ヒエを与えてくれた。
これが各1石。つまり、合わせて3石。
1石というのは、大人一人の1年間の消費量だと言われている。
私が養うのは20名の子供だから、3石だと、一人あたりにすれば、だいたい2ヶ月半から3ヶ月分ぐらいか?
親たちには、2、3ヶ月分のアワ、キビ、ヒエを渡すから、お宅のお子さんを貸してねってお願いする事になる。
それで、見込み…使えるか、使えないか、結果出せと。
まぁ、ハーティの立場なら、そう言だろう。
予想していたが、やっぱり甘くないなぁ。
コメだったら、親たちは大喜びだろうけれど…コメはダメか。
さらに言うなら、10歳以下の子供20人でどんな結果が出せと言うのだろうか?
だが、当然だ。
それぐらいのシビアさがなければ、主(ウフヌ)になどふさわしく無い。
ということで、ええ、出しましょうとも。
結果をね。
我に勝算ありだ!
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