まずは、自己紹介。
私の名前はアーク・クィンツ。
この国の女王だ。
女神と呼ぶ者もいる。
というか、女神と呼ぶのを容認している。
別に自意識過剰っていうつもりはない。
ただ、そう呼ばせた方が、私にとって甚だ都合がいいから黙認しているだけだ。
黙認?うむ。もっと積極的な感じがするが…。
そこは、それ、大人の事情ってやつだ。
あ、いや、詳しい事情は、追い追い書こう。
なぜ、私が女王となったか?
なぜ、私が女神と呼ばれるようになったのか?
実は、そろそろ、それを、私自身によって書き残さないといけないかな?と思って、ここに記すのだ。
これは、今の私の民に読ませるつもりのものではなく、いく世代を経た将来の、私と似たような経験をするかもしれない、ちょっと残念なヤツの、ちょっとした好奇心を満たしたり、あるいは、この世界で生きていくヒントになれば良いなぁ。
ぐらいの目的で残すものだ。
でも、女神と呼ばれる私の遺物なのであるから、少しは有難がって読んでくれても構わないぞ。
女神の記録なんだから、それはそれ、その方面では聖典に類するものになるだろう。
あ、だから、今、君がどういう文体でこれを読んでいるかわからないが、もしも私に信仰がある者なら、きっと神々しく、重々しい文語体で読めるだろう。
その場合は、私の事を、大いに崇め敬えば良い。
むふふふである。
だが、私の事なぞ、なんとも思ってないなら、きっと砕けた口語体で読めるはずだ。
それはそれ…私は別に構わないが…周囲には、少しは私の事を、敬ったフリをしてくれると…私はちょっとだけむふふである。
まぁ、無理は言わないが、少しぐらいなら、構わないであろう?
え?
ダメ?
ダメなの?
…うむ。
でも、私も女王とか、女神とか言われる立場だから、それぐらいで、拗ねたりいじけたりなどしない。
そう。
私は寛大なのだ。
私の寛大さは海よりも広く、空よりも青く、雲よりも白いのだ。
まさに、この、エーシャギークの王城から見る、清々しい眺めのように。
というか、眺めそのものだと言っても良い。
ああ、今日も、照りつける太陽が、キラキラと、眩しいではないか?
あぁっと…。
脱線してしまった。
うむ。
だから、そう。
君が私の事をまったく敬えなくても、讃えられなくても、崇められなくても!
そのまま…この、私の記録を読み進めてもらって構わない。
うむ。
それはそれで、実にまた、結構この上ない事だ。
どーせ君は私と同じ、ちょっと残念なヤツに違いないのだからな。
うぷ。
どうだろう?
この私の態度に、少しは、感銘したのではないか?
え?
うざいって?
あ、いや…。
まさか、そんな事は思わないだろ?
もし君が、本気でそんな風に思ったとしたら、私はヘコむぞ。
いいのか?
女王にして女神の私がヘコんでも。
いいのか?
いや、いかんだろ?
そう、絶対いかんとか、思わないか?
…ああ?
思わない?
そう…。
…そう…だろうね。
そうさ、君はそういうヤツだろう。
所詮、この世界に飛ばされるヤツなんて、そういうヤツに違いない。
結構結構。
私は気にしない。
むしろ同情せねばならない存在なのだろうからな。
君は。
うむ。
そうなのだ。
話しを戻すと、ご多聞にもれず、私は君と同輩だ。
あ、いや、先輩というべきか?
つまり、私も君と同じ転生者だ。
君がどういう世界からここに来たのかは、問わない。
私と同じ世界から来る可能性は、限りなく低い事は承知しているからだ。
だが、私の、この、物語を読み進めるにあたり、事前の知識として、私が、もともといた世界ではどういう存在だったのか?
それを、極めて簡単かつ簡潔に説明しておこう。
先にも述べたように、この世界での私はアーク・クインツ。
女王にして女神と称される存在だ。
君がこれを読んでいる時点で、私の国が残っているかどうかはわからないが、とりあえず、こっちでの性別では女という事になる。
だが、この世界に来る前、私は男だった。
あ、君が元いた世界に性別があったのかどうか知らないが、私の元いた世界には、性別があったのだ。
その上、私は、そこそこ年齢を経ていた。
つまり、元の世界では、それなりに生きて、それなりにくたびれた…男。
それが私だ。
だが、こちらの世界で、私が目覚めた時、私は、フレッシュフルーティな4歳だった。
その上、女である。
さらに言えば、まごう事なく美幼女だった。
もちろん、目覚めた当初は自覚などなかったが、アーク・ハーティ…。
つまり、私の父親が持ってきた鏡を見た時は衝撃的だった。
鏡の中には、輝くような金の髪と、透き通るような肌をした、天使のような幼な子が、そこに居たからだ。
それが自分だと理解するのに、数秒掛かったぐらいだ。
いや、この世界の者たちが、私を見る時の輝く瞳の理由が、よくわかった瞬間だと言っても良い。
うむ。
…君は私の容姿について疑うのか?
ちょっと大げさすぎると思うのか?
いや、それは実にそうではない。
自分で言うのもなんなのだが、本当に天使がそこに居たのだ。
そう、私が後に女神と呼ばれる理由の一端は、そこにある。
つまり、私の容姿にあるのだ。
同時に、私が、人生を必死に生きた理由もそこにある。
と、言うのは、要するに…可愛すぎるからだ。
人間、特に男というのは、可愛い女に目がないだろ?
私は、もともとが男だったから、男のそういう劣情はよく理解出来るのだ。
だから、私は鏡を見てすぐ察した。
これは、ヤッヴァいと。
まだ4歳にして、この容姿。
しかも、私は貧弱と来た。
貧弱、ヒンジャク、ひぃんじゃくぅぅぅぅぅうううう!
そもそも、無理があるのだ。
私の透き通るような肌は。
とてもじゃないが、エーシャギーク…いや、このウーマの島々を照らす日光の中、やっていけるものではない。
君がどこの世界の、どこから来たのか?
あるいは、こっちの世界のどこに暮らしているかは知らないが、日光を舐めては行けない。
日光は毒だ。
刺々しい光の針だ。いや、槍だ。
透き通るような白い肌には、その槍どもへの耐性がないのだ。
少しでも長い時間、外で日光を浴びてしまうと「あら、いやん」と、倒れてしまうぐらいなのだ。
別に吸血鬼属性があるわけではない。
いや、これだけ日光にリスクがあるなら、それぐらいのメリットがあっても良いのだが、残念な事に、私は、それに恵まれなかった。
まったく、とほほの話しである。
だが、私が貧弱なのは、きっと肌だけの問題じゃない。
と、いうのは、私の母親にも問題があるからだ。
いやいや、むしろ父親が問題なのか?
詳しい説明は後にするが、要するに私の両親には問題があって、その結果、私は貧弱なのだ。
貧弱の美幼女。
貧乳の美少女ではないぞ?
まだ幼女なのだから、ツルツルペッタンコなのは当たり前ではないか?
だが、貧弱の美幼女。
それだけで、私を取り巻く環境は危険の塊だ。
何より私は、私の両親について詳しく知った事で、父親にすら危険を覚えた。
この危険をどう回避するのか?
それが私に与えられた最初の課題だった。
だが、いくら前世の記憶があるとは言え、所詮4歳の身。
すぐにどうこうなるわけがない。
とりあえず私は、何が私に出来るのか?
どうすれば正解の行動なのか?
それを知るために、じっくり周囲を観察する事から始めた。
てか、他に出来る事が思い浮かばなかったのだ。
おそらくこれを読んでいる君もそうなのではないか?
他の世界から転生してきても、いきなり行動出来る事なんてない。
まぁ、転生ではなく、転移者だったら違うかもしれないが。
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